医療イノベーションコース

 医療におけるイノベーションは、ライフサイエンスにおける基礎研究の成果が実際に医療の現場で活用されてかつそれらの有効性や安全性が再評価されるまでの全ての活動を含んでいる。研究の現場では常に新しい研究成果が発生し、これらを他の科学技術の成果と融合させて新たな医療のソリューションとして社会に提供しようとする試み全体を我々は「医療イノベーション」と捉えており、その活動のデザインのためには、生命倫理/医療倫理、知的財産、産学連携、技術標準、規制、ビジネス、科学技術政策、医療政策、社会情勢などを俯瞰的に捉える視点の育成が重要である。基礎研究者と謂えども医療・ライフサイエンス分野の研究者は、先端科学の成果を医療や産業へ展開するために必要となる社会の仕組みとその課題を理解していることが求められており、医療イノベーションコースでは、教育と研究の両面から、医療イノベーションに貢献する人材の育成に取り組んでいる。

教育カリキュラム

 医療イノベーションコースでは、メディカル情報生命専攻の大学院生を中心とする生命系の大学院生を対象とし、研究者が研究活動を実施していくために必須となる知識を講義・演習群として提供している。特にライフサイエンス系の研究者が研究を始めるに際して、①研究倫理と医療倫理の基礎的な知識(研究倫理/医療倫理)、②知的財産に関する基礎的な知識(バイオ知財法概論)、③医療イノベーションの全体像、産学連携、企業の活動等をフレームワーク思考で分析できること(医療イノベーション特論I)、④医科学に関連する政策に関する知識(医科学と公共政策特論㈵)、⑤臨床研究、臨床試験などヒトを対象とした研究や試験に関する基礎知識は、将来アカデミックで活動するか企業や公的機関で活動するかに関わらず必須の知識・スキルであり、「教育コース」としての医療イノベーションコースはこのためのカリキュラムを編成している。下記の講義・演習を実施している。

研究倫理/医療倫理Ⅰ:人の試料や被験者を要する研究を行う医科学研究者は、研究開始前に被験者保護に関する基礎的なトレーニングを受ける必要がある。この講義では、研究倫理と臨床倫理に関する歴史的な、また現代的な課題を取り扱う。受講後には、人を対象とした研究の倫理的な行動規範に関して議論ができるようになり、研究開始前にすべき手続きを理解できるようになっていることを目標とする。
研究倫理/医療倫理Ⅱ:人の試料や被験者を要する研究を行う医科学研究者は、研究開始前に被験者保護に関する基礎的なトレーニングを受ける必要がある。この講義では、研究倫理と臨床倫理Ⅰ(47210-29)を学んだ受講者に対して、研究と臨床をつなぐ様々なトピックを学び、意見交換してもらう。受講後には、人を対象とした研究とその医療への応用という文脈において、倫理的課題を議論し、同定し、分析できるようになっていることを目標とする。
バイオ知財法概論Ⅰバイオテクノロジー分野の知的財産入門
研究者が知っておくべき知的財産に関する基礎的な知識を修得するとともに、バイオテクノロジー分野における代表的な特許やその役割について学ぶことにより、特許の重要性を理解する。
バイオ知財実践演習特許を実際に書いてみる演習
発明の創出から出願までの一連の過程を、具体的な題材を用いて実際に経験することにより、研究者が特許出願を行う際の各ステップの実態を体験的に理解すると共に、各ステップにおけるポイントや留意点等を効率的に修得する。
医療イノベーション特論Ⅰ医療イノベーション分析のためのフレームワーク思考の養成
様々なフレームワークによる産業分析を通じて、ビジネス分析、企業デザインの基礎を学ぶ。
医療イノベーション特論Ⅱ企業における研究開発のイメージを醸成する
研究成果を社会に展開するために必要となる知識を、①企業の研究開発担当者のプレゼンを聴くことによるイメージの醸成、②自ら主導的に社会的な課題を解決していく手段としての起業知識獲得のためのスタートアップ起業のデザイン演習、の2つの側面からアプローチする講義と演習。
医療イノベーション俯瞰演習研究分野を俯瞰し、自らの関心事項の世界における位置づけを明らかにする
参加者自らが関心のあるテーマと研究上もしくは社会的な課題との関連性の俯瞰的に把握するため、①キーワード設定を試行錯誤しながら、キーワードの組合せにより文献データベースから何件の論文がヒットするかを実際にWeb of ScienceやPubMedを検索し、②膨大な文献の関係性を自動で解析するマッピングツールやテキストマイニングツールを用いて、自らの研究領域や関心を持つテーマがどのように分類されるか、③そうした情報空間は研究上の課題や社会的な課題とどう結びついているのかを分析する。文献データベースと分析ツールが発達し、修論や博論における「背景」記述には必須の作業となったが、ツールの利用体験がそのための準備となる。
医科学と公共政策Ⅰ:今日の医科学は、広く公共政策の観点から、その方向性や評価のあり方が問い直されている。本講義では、広く科学技術政策、生命・医療倫理、患者・市民の参画などをテーマとした、国内外の重要文献を購読しつつ、また議論や意見交換をしながら、医科学の今日と将来を考えるための論点を学ぶ。内容的には、日本語文献の精読を行う。白金台キャンパスのヒトゲノム解析センター3階 セミナー室にて開催する(遠隔配信を行わない)。
医科学と公共政策Ⅱ:今日の医科学は、広く公共政策の観点から、その方向性や評価のあり方が問い直されている。本講義では、広く科学技術政策、生命・医療倫理、患者・市民の参画などをテーマとした、国内外の重要文献を購読しつつ、また議論や意見交換をしながら、医科学の今日と将来を考えるための論点を学ぶ。「医科学と公共政策特論Ⅰ」を履修した学生による履修を推奨する。
橋渡し研究概論:先端研究を基にした、あるいは従来の手法とは異なるアプローチに基づく医療開発推進は急務となっている。このような医療開発を担うためには研究に精通しているだけではなく、新たな治療法を人で試みる臨床試験の知識及び臨床試験を実施するための法や規則等の知識も必要である。本講義では 臨床試験の概要、臨床試験と生命倫理、法・規制・ガイドライン、臨床試験における統計解析など最新の知見を交え必要とされる知識を学ぶとともに、橋渡し研究の実際などについても紹介する。

社会科学としての研究活動

 医療イノベーションコースの研究室に所属する大学院生は、医療イノベーションについての「社会科学的な研究」を実施している。自然科学と社会科学の融合領域における研究となるため、理系文系を問わず、また経験を問わず、幅広いバックグランドの学生の参加を期待しているが、特に自然科学系のバックグラント を持った修士卒の学生が社会科学分野に参入する際の導入教育に力を入れており、「社会科学的に考えるとはどういうことか」について、最初の半年間に基礎的なトレーニングを実施している。
 現在、医療イノベーションコースは、バイオイノベーション政策分野公共政策研究分野先端医療開発推進分野の3研究室で構成されており、詳しい研究内容については各研究室の活動内容を参照されたいが、社会科学分野の特徴として、研究テーマ設定やアプローチの自由度が高く多様であり、かつ社会人学生も多く在籍していることがあげられる。医療やライフサイエンスで起きている社会的な課題を「研究テーマ」に変換し、社会科学的なアプローチで検証していくという研究活動の中では、社会人としての知識や経験が研究にも生かされており、特に「社会人コース」としての枠は設けていないが、働きながら大学院生としても研究にコミットできるよう運営上の配慮がなされている。
 当コースの大学院の受験を検討される際には、指導を希望する教員にアポイントを取り面談を行い、これまでの研究内容、課程での研究計画、卒業後の予定について自らの考え方を説明し、十分に指導教員と話し合いを行った上で受験することを強く推奨する。

カリキュラム

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