
准教授: 平田 喜裕
TEL: 03-6409-2335
E-mail: yohirata{at}ims.u-tokyo.ac.jp
研究室HP
【キーワード】消化器疾患 炎症 癌 幹細胞 微生物 モデル動物
私たちの研究室では、生体の遺伝情報を司るゲノムのレベルから病気を発症する個体のレベルまでを包括的に研究しています。対象としているのは、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、胆道、膵臓などの消化器疾患です。消化器病は、食思不振、腹痛、出血などさまざまな症状で発症し、病気が多彩で、患者さんがとても多い領域です。研究対象の病態としては、胃炎、肝炎、大腸炎など病原体や自己免疫、遺伝子異常などによってひきおこされる炎症性疾患と、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵癌などの悪性腫瘍があります。これらの患者さんから得られた知見をもとに遺伝子レベルで病気の発生の仕組みを調べたり、マウスモデルを用いて新規治療方法を考案したり、あらたな治療標的分子を探索したりしています。
消化器の炎症性疾患の研究としては、二つの研究アプローチをとっています。一つは(病原性)微生物との関連です。消化器領域ではピロリ菌感染や肝炎ウイルスなど病原体がしばしば慢性炎症の原因となっています。ピロリ菌感染は胃粘膜の萎縮を伴う慢性胃炎を発生させます。また肝炎ウイルスは肝細胞に持続感染し、炎症だけでなく肝細胞の破壊と再生をひきおこします。これらの病原体がどのようにヒトの細胞と相互作用をきたすのか、それらに関わる分子は何か、また炎症細胞はどのようにかかわるのか調べています。また明らかな病原体とはいえない体内で共生している腸内細菌にも注目しています。腸内細菌叢の構成バランスの変化が、腸炎、メタボリック症候群、脂肪肝など生体のさまざまな病気のきっかけになることが分かってきています。我々も、腸内細菌叢のバランス異常が発生する機序やその臓器への影響について、糞便の解析やマウスモデルの検討を行っています。炎症における二つ目の研究アプローチは自己免疫性の異常が対象です。ゲノム医学の進歩により自己免疫性疾患に関連する遺伝子が多数見つかってきています。しかしほとんどの遺伝子について、どのように免疫異常や炎症を引き起こすのか、さらに治療標的になるのかなどは分かっていません。我々はこれらの遺伝子異常をマウスの臓器特異的に導入して、遺伝子異常が免疫異常を引き起こす機序を検討しています。これらの研究を通してさまざまな臓器の炎症で中心となる細胞、サイトカイン、遺伝子異常などを発見し、潰瘍性大腸炎や原発性硬化性胆管炎などの炎症性疾患の新規治療法を探索しています。
消化器癌の研究では、胃癌や胆管癌などの発生機序とその治療法を研究しています。上で説明した慢性炎症性疾患がそれぞれの臓器の発癌に関与しているため、炎症から癌化にいたるメカニズムを遺伝子レベル、細胞レベル、個体レベルで検討しています。また炎症の抑制によって胃癌や胆管癌などの予防ができるかについても基礎的な検討を行っています。さらに近年同定されてきた臓器幹細胞に着目して癌の発生機序を調べています。胃癌や胆管癌などで実際にヒトでみられる遺伝子変異がどのように発癌に関わっているかについて、遺伝子改変マウスを用いて検討しています。また発癌において組織幹細胞がどのような役割をしているのかについても、幹細胞の三次元体外培養法と遺伝子編集を用いて検討していきます。
このように当研究室では、よくみられる病気の発生機序やその治療法について、遺伝子、細胞、臓器、個体レベルで研究しています。とくに病態が実際に観察できるマウスモデルは、研究のイメージがつきやすく、個人の技量や希望に応じた研究テーマと指導を提供します。興味のある学生の応募を待っています。下記ホームページもご参照ください。
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/dagm/japanese/home.html