臨床医科学分野

正井研究室

客員教授: 正井 久雄
東京都医学総合研究所 ゲノム動態プロジェクト
TEL: 03-5316-3231
E-mail: masai-hs{at}igakuken.or.jp
研究室HP

研究紹介

【キーワード】 DNA複製、ゲノム安定性、クロマチン高次構造、複製チェックポイント、グアニン4重鎖、RNA-DNAハイブリッド、がん、制がん剤

 染色体DNA複製は、正確に、高速に、秩序正しく起こる。この過程の異常は、がん細胞や老化細胞に見られるゲノムの遺伝的不安定性(変異、染色体の欠損や再編成など)を引き起こす。実際、最近の研究から、内的外的な原因による複製障害に対する適切な細胞応答の破綻が、がん細胞の初期遺伝的変化の主要な要因になっていることが示されている。また複製制御に関与する因子が臓器、組織の発生・分化に直接的に関与する可能性も示唆されている。さらに、グアニン4重鎖構造、RNA-DNAハイブリッドを始めとする非B型DNA構造が、複製制御を始め、多様な生物反応の種々の側面で鍵を握る役割を果たしていることが明らかになってきた。私達は、染色体複製制御の普遍的なメカニズムの解明を基盤に、ゲノムDNA構築とその機能発現制御の新しい原理の解明を目指す。具体的には大腸菌、分裂酵母、動物細胞、マウス個体など多様な生物を用いて、次のような課題にアプローチする。1) ゲノム複製開始の普遍的なメカニズムの解明。2) 複製ストレスに対する細胞応答のメカニズムの解明と、その破綻と発がん、疾患との関連。3)染色体高次構造の制御を介した複製起点活性化の時空間プログラム制御の分子基盤の解明。4) ゲノムDNA上の非B型構造の多様な生物学的意義の解明。5) 複製因子の変異による脳発生異常のメカニズムの解明。6) 複製、細胞周期因子を標的とした新規な創薬戦略の開発。ゲノム複製の研究から、ゲノムの新原理の解明に挑むチャレンジングな研究に参画したい大学院生を募集する。

研究テーマ
1 ゲノム複製の普遍的メカニズムの解明と複製システムの進化
2 複製ストレスに対する細胞応答機構の解明と発がん、疾患への関与
複製ストレスチェックポイントメディエーターClaspinの構造と機能の解明。複製開始制御と複製ストレス応答における機能の解明・分子内相互作用による機能制御機構、栄養、温度、酸素など種々のストレス応答の仲介分子としての機能の解明を目指す。
3 複製の時空間プログラムとクロマチン構造
1,2の研究ではグアニン4重鎖(図1)がこれらの制御に重要な役割を果たす事が明らかとなってきた。保存された核因子Rif1は染色体機能ドメインの制御を介して複製タイミング制御に中心的な役割を果たす(図2)。
4 ゲノムDNA上の非B型DNA構造の生物学的意義の解明
グアニン4重鎖、RNA-DNA ハイブリッドなど非B型DNA構造の新規機能の発見と、これら特殊形態を有する核酸によるゲノム機能制御の新しい原理解明を目指す。
5 複製因子の変異による脳発生異常のメカニズムの解明
Cdc7キナーゼ、Claspinなどの、脳を含む種々の臓器・組織の発生における役割・個体レベルでの機能を、遺伝子改変動物を用いて解明する。
6 複製、細胞周期因子と疾患の関連と、これらを標的とした新規な創薬戦略の開発
複製制御因子の変異がもたらす疾患の分子基盤の解析と、複製因子、チェックポイント制御、細胞周期連動を標的とする新規創薬戦略を開発する。




図1 グアニン4重鎖構造



図2 Rif1は 遺伝子間領域に存在する G4構造に結合し、
クロマチンを束ね、核膜近傍に複製抑制ドメインを形成する。

研究室行事など
毎週月曜(第一以外)9:30~10:30, Journal Club; 毎月第一月曜9:30~17:00頃まで, Progress Report会議
(事前連絡の上いつでも見学にいらしてください)

参考文献
1  Moriyama et al. (2018) J. Biol. Chem. In press
2  You, Z. and Masai, H. (2017) Nucleic Acids Res. 45, 6495-6506.
3  Toteva et al. (2017) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 114, 1093-1098.
4  Matsumoto et al. (2017) Mol Cell. Biol. 37, pii: e00355-16.
5  Yang et al. (2016) Nature Communications 7:12135
6  Kanoh, Y. et al. (2015) Nature Struct. Mol. Biol. 22, 889-897.
7  Yamazaki, S. et al. (2013) Trends in Genetics. 29, 449-460.
8  Yamada, M. et al. (2013) Genes and Development 27:2459-72.
9  Yamazaki, S. et al. (2012) EMBO J. 31, 3167-3177.
10 Hayano, M. et al. (2012) Genes and Development, 26,137-150.
11 Hayano, M. et al. (2011) Mol. Cell. Biol. 31, 2380-2389.
12 Matsumoto, S. et al. (2011) J. Cell Biol. 195, 387-401.
13 Masai, H. et al. (2010) Ann. Rev. Biochem. 79, 89-130.


糸川研究室

客員教授: 糸川 昌成
東京都医学総合研究所 統合失調症の原因究明と予防・治療法の開発プロジェクト
TEL: 03-5316-3228
E-mail: itokawa-ms{at}igakuken.or.jp
研究室HP

研究紹介

【キーワード】精神疾患、心、脳、分子生物学、ゲノム

ヒトはなぜ心を病むのか。かつては、この答えを宗教や哲学の領域が探究した。この問答に医学が参入するようになって、まだ300年ほどしかたっていない。我々は、生物学の方法と道具を用いて、脳と心が織りなすこの難問に挑んでいる。
 脳波や画像を含む身体的な検査で何も異常が見られないのに、情動や思考に困難が生じる脳の疾病を機能性精神疾患という。統合失調症は、気分障害と並ぶ代表的な機能性精神疾患である。我々は、統合失調症の経験者の協力を得てゲノム解析やメタボローム解析を行い、統合失調症の原因解明に取り組んできた。当事者で多く見られるゲノム多型や代謝障害を、培養細胞や動物モデルで再現し病態を科学的に再構築している。また、特徴的なゲノム多型や遺伝子変異をもつ当事者からiPS細胞を樹立して、神経系へ分化させ病態を解析している。統合失調症は、どの民族でも100人に一人がかかる、比較的頻度の高い疾患である。人類が進化の過程で、この病態を淘汰せず一定頻度で経験し続けてきたのはなぜだろうか。モデル動物や培養細胞で再構成された病態には、そうした観点からも答えを見出そうとしている。
統合失調症では、脳の高次機能である能動性の意識や自己の同一性など、自我の機能にも困難を生じる。自我や自己意識といった、かつて哲学や宗教が挑んだ領域に、ミクロのレベルの生物学から解明に挑んでいる。(http://www.igakuken.or.jp/schizo-dep/

参考:科学者が脳と心をつなぐとき(地域精神保健福祉機構)、統合失調症が秘密の扉をあけるまで(星和書店)、臨床家がなぜ研究をするのか(星和書店)


佐伯研究室(23/4~医科研に異動:23夏めどに引越し予定)

客員教授: 佐伯 泰
旧:東京都医学総合研究所 蛋白質代謝プロジェクト
新:東京大学医科学研究所 タンパク質代謝制御分野
TEL: 03-6834-2329
E-mail: saeki-ys{at}igakuken.or.jp
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研究紹介

【キーワード】ユビキチン-プロテアソーム系、タンパク質分解、プロテオスタシス、液-液相分離、質量分析

ユビキチン・プロテアソーム系の仕組みを理解して関連疾患の治療戦略を立てる!

ユビキチン・プロテアソーム系(UPS: ubiquitin-proteasome system)は異常なタンパク質や役目を終えた機能タンパク質を選択的に分解することで、タンパク質恒常性(プロテオスタシス)の維持のみならず遺伝子発現、シグナル伝達など様々な細胞機能の制御に必須の役割を果たしています。そのため、ストレスや遺伝子変異によるUPSの破綻は、神経変性疾患や自己免疫疾患、がんなどの様々な疾病を引き起こすこと、さらには個体老化とも密接に関連することがわかってきました。一方、プロテアソーム阻害剤や標的タンパク質分解誘導剤PROTACなどUPS創薬が世界的に進展しております。しかしながら、UPSは大規模かつ複雑な生体防御システムであり、UPSの基本的な作動機構と高次での生理機能について我々の理解は十分とはいえず、またUPS創薬のターゲット分子や評価系も限られているのが現状です。
そこで、私たちの研究室では、質量分析や定量イメージング、ケミカルバイオロジーの手法を用いてUPSの基本的な分子メカニズムを解明すること、また、最近作出したプロテアソーム病モデルマウスを用いて個体レベルでのプロテアソーム研究を推進することで、UPS関連疾患の発症機構解明や創薬研究に貢献することを目指しています。

1)ユビキチン・プロテアソーム系の作動機構

従来、ユビキチン化基質はプロテアソームにより直接識別され分解されると単純に考えられてきましたが、私たちは、ユビキチン選択的シャペロンp97(別称VCP、Cdc48)やシャトル分子RAD23Bなどがプロテアソーム基質の選別やプロテアソームへの輸送に重要であることを見出しました(Mol Cell 2017; Nat Commun 2018, 2019)。また、枝分かれした複雑なユビキチン鎖がプロテアソームによる分解を増強することを見出しています(PNAS2018; Mol Cell 2021)。さらに、プロテアソームには多数の相互作用分子が存在するため、プロテアソームによるタンパク質分解は様々なレベルで厳密に制御されていることが示唆されます。そこで、現在、ユビキチン修飾の構造多様性(ユビキチンコード)、ユビキチン結合分子(デコーダー分子)、基質タンパク質について定量プロテオミクスによる網羅的解析とケミカルバイオロジーによる介入実験を組み合わせることで、本分解経路の分子ネットワークと作動機構の解明に挑戦しています。

2)プロテアソームの液-液相分離の生理的意義

プロテアソームは細胞質と核質に拡散して存在しますが、最近、私たちは高浸透圧ストレス刺激により、プロテアソームがユビキチン化基質とともに液-液相分離(LLPS: liquid-liquid phase separation)してタンパク質分解のための液滴を形成することを見出しました(Nature 2020)。他のストレス刺激によってもプロテアソーム液滴が形成することを見出しており、ユビキチンとプロテアソームの相分離は、ストレスにより攪乱されたプロテオスタシスを是正するための新たな細胞応答と考えられます。ユビキチン化基質のLLPSは、さまざまな神経変性疾患において共通して観察されるユビキチン陽性封入体の形成と関連する可能性があるため、現在、人工的なユビキチン依存的LLPS誘導法の開発や各プロテアソーム液滴の分解基質について詳細な解析を実施しています。

3)プロテアソーム病モデルマウスを用いたUPS関連疾患の発症機構

プロテアソームは全ての細胞の生存に必須ですので、ノックアウトマウスを用いた解析はあまり有効ではなく、個体レベルでのプロテアソーム研究は大きく立ち遅れています。そこで最近、私たちは、自閉症患者より見出されたプロテアソーム遺伝子変異をもとに全身性のプロテアソーム機能減弱マウスを作製しました。このプロテアソーム病モデルマウスを解析することで、プロテアソーム機能がどのライフステージで重要なのか、どの組織で大事なのか、さらにはプロテアソーム機能の低下が実際に神経変性疾患や老化を引き起こすのか?等の問いに答えることができると考えています。

研究室の雰囲気

最近の研究成果

1.Kaiho-Soma et al. Mol Cell 2021「PROTAC効果を増強するユビキチンリガーゼの発見」
2.Yasuda, Tsuchiya, Kaiho, et al. Nature 2020「プロテアソームの液-液相分離の発見」
3.Sato, Tsuchiya, Nat Commun 2019「p97のユビキチン鎖認識機構の解明」
4.Tsuchiya, Burana, et al. Nat Commun 2018「ユビキチン鎖の長さもコードである」
5.Ohtake et al. PNAS 2018「分岐型ユビキチン鎖による分解誘導」
6.Tsuchiya et al. Mol Cell 2017「プロテアソーム基質選別機構の解明」

平成23年4月より臨床研、神経研、精神研の3研究所が統合され、東京都医学総合研究所にとして新たに発足し、下記の場所の新研究棟で研究を行なっています。

所在地 〒156-8506 東京都世田谷区上北沢二丁目1番6号
電 話 03-5316-3100(代表)

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