生物情報科学分野

准教授: 程 久美子
大学院理学系研究科 生物科学専攻(本郷)
E-mail: ktei{at}bs.s.u-tokyo.ac.jp
研究室HP

研究紹介

【キーワード】genome information, miRNA, siRNA, thermodynamics, epitranscriptome

さまざまな環境要因がRNAを介して遺伝情報を制御する

細胞内ではゲノムを構成するDNAからRNAが転写され、RNAからタンパク質が翻訳されることによって、ゲノムの遺伝情報に基づいた機能が発揮されます。このような分子生物学の中心原理はセントラルドグマと呼ばれます。長い間、RNAはDNAからタンパク質へと遺伝情報を伝達するための仲介分子であると認識されていました。しかし、近年、RNAに関する分子生物学の研究が急速に進展して、RNA は単なる遺伝情報の仲介役ではなく、自身にも様々な機能があることが明らかになってきました。このようなRNAはノンコーディングRNAと呼ばれ、これまでの研究対象となっていたRNA群とは異なるものと位置づけられます。私たちは、主としてノンコーディングRNAを対象とした研究を行っています。

小さなRNAのゲノムワイドな遺伝子発現制御

ノンコーディングRNAの中には約20塩基ほどの小さなRNAから数10キロ塩基におよぶ長いRNAまであり、それぞれ多種多様な生命現象に関わっています。microRNAやsmall interfering RNA (siRNA)という約20塩基のRNAは、短いながらも相補的な塩基配列をもつメッセンジャーRNA群を識別し、一気に抑制するというグローバルな働きをもっています。われわれは、マイクロアレイなどの細胞・分子生物学的実験と情報科学的解析を組み合わせることにより、ヒトでは2,000種にもおよぶmicroRNAの配列やそれらのもつ熱力学的性質に依存して、ゲノムワイドな遺伝子サイレンシングが起こることを明らかにし、そのような遺伝子制御は生物の体温の影響を受けることを見出しました。

自然免疫応答とRNAサイレンシング

RNAウイルスが感染するとヒトを始めとする哺乳類では自然免疫応答と呼ばれる生体防御機構が駆動します。そのため、内在的なRNAサイレンシングのメカニズムは何らかの影響をうける可能性が考えられますが、その機構については不明でした。われわれは、TRBPというRNAサイレンシングに関わるRNA結合タンパク質がウイルス感染時には自然免疫応答機構にも関わり、両経路のバランスを調節する可能性を見出しました。環境要因の1つとして、特に哺乳動物特異的な免疫応答系との関連を明らかにしていきます。

エピトランスクリプトーム

古くはトランスファーRNAやリボソームRNAなどで見出された、メチル化や脱アミノ化などのRNAの化学修飾がノンコーディングRNAにも多く存在し、遺伝子発現調節機構に大きな影響を与えていることが明らかになってきました。われわれは、RNA結合タンパク質の免疫沈降実験や大規模シークエンスによる網羅的な解析により、ADARというRNA脱アミノ化酵素がmicroRNAのアデノシンを脱アミノ化することで、遺伝子発現をゲノムワイドに変換することを明らかにしています。さらに、核酸の構造学的シミュレーションをコンピューテーショナルに行うことで、microRNAの化学修飾がもたらすエピトランスクリプトームにおける調節機構を解明しようとしています。

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