情報生命科学群/基幹講座瀧川研究室
(データ駆動知能分野)
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瀧川 一学 教授
生命の複雑さに挑む新たな情報科学を創る
当研究室では、生命の理解に資する「新しい情報科学」の創出を目指します。具体的には、主に分子間相互作用や非平衡ダイナミクスの解析を試験台として、代謝、転写、触媒、顕微鏡画像、化学反応、量子化学、質量分析、立体構造など、複雑な非数値的データ(組合せ構造・幾何構造・離散構造など)を伴う対象に対する機械学習・機械発見アルゴリズムの設計を通じて、何の変哲もないありふれた素材から「生命」が組みあがる情報構造と情報過程を明らかにする「新しい生命科学の道具」を確立することを目指しています。
- 研究キーワード
- 機械学習、機械発見、AI for Science、統計的予測、離散アルゴリズム、組合せ数学、論理推論
組合せ構造・幾何構造・離散構造の統計的機械学習
ゲノム、タンパク質、遺伝子ネットワーク、分子構造など、生命科学に現れるデータは単なる数値ではなく複雑な構造を伴います。このような対象に対して統計的予測技術である「機械学習」を設計する情報科学的な研究を行っています。生命の複雑さを理解するためには既存手法の応用ではなく、機械学習・機械発見そのものを情報科学的に再定義し新しく作り直す必要があります。この真摯な探求の上に初めて、画像、音声、動画、自然言語の分野で示されてきた実用レベルのブレイクスルーを「科学」の分野にもたらすことができると考えています。
機械発見と機械理解:科学の方法の科学
AI for Scienceは「科学を行う方法の科学」であり、必然的にメタサイエンスの色を帯びている分野です。近年の情報科学の発展は、「科学的理解とは何か」という問題を私たちに突きつけています。特に、機械学習(あるいは、一般に、データに基づく統計的予測)という道具の特殊性がこの非自明な問いを鮮明化しました。大量のデータに基づく機械学習予測によって、画像認識、音声認識、自然言語処理は、私たちの身近なサービスとして実用レベルのテクノロジーになりました。こうした情報科学手法は人手で設計されたものであり、開発者は内部の処理を詳細まで100%把握しています。それにも関わらず、私たちがどう画像や音声を認識するのか、あるいは、私たちがなぜ言語を獲得し運用できるのか、の理解に今のところほとんど貢献していません。この事実は、対象現象を再現するシステムを「もし作れたら理解できる」という構成論的な理解のあり方に懐疑を投げかけるものです。私たちは、生命という実世界現象を試験台とすることによって、単なる抽象論な議論に陥りやすいこの問題を具体的・技術的に探求できます。「科学的発見」「科学的理解」に至るための新しい道具を広い視野で探求していきます。
化学としての生命から情報としての生命へ
「生物情報学」には「情報科学を利用して生命科学を切り拓く」研究と「生命科学のための情報科学を切り拓く」研究の両輪が必要だと考えます。当研究室は、後者の役割を担う情報科学の研究室です。
石を集めただけでは家にならないように、生命を構成しているすべての原子を集めただけでは生命になりません。生物と無生物の違いは材料にはありません。実際、生命を構成する原子は代謝により絶え間なく入れ替わっています。原子が分子、組織、個体へと階層的に組み合わさり、こうした構成物が化学反応により複雑に相互作用し、非平衡ダイナミクスを実現しています。この結果として、常温環境下にも関わらず何千もの化学反応が全体として高度に連動し絶えず進行し物質代謝・エネルギー代謝を実現しています。こうして生命はエントロピー増大則に抗って高度な秩序を保っています。
当研究室の主要な関心は分子間相互作用と非平衡ダイナクミクスの理解です。具体的には、代謝、転写、触媒、顕微鏡、化学反応、量子化学、質量分析、立体構造など、情報科学研究室ならではの多岐にわたる対象を試験台として、私たちが作り出す「新しい道具」を実証していくことを目指します。