メディカルサイエンス群/連携糸川研究室
(臨床医科学講座・東京都医学総合研究所)
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糸川 昌成 客員教授
ヒトはなぜ心を病むのか。かつては、この答えを宗教や哲学の領域が探究した。この問答に医学が参入するようになって、まだ300年ほどしかたっていない。我々は、生物学の方法と道具を用いて、脳と心が織りなすこの難問に挑んでいる。 脳波や画像を含む身体的な検査で何も異常が見られないのに、情動や思考に困難が生じる脳の疾病を機能性精神疾患という。統合失調症は、気分障害と並ぶ代表的な機能性精神疾患である。我々は、統合失調症の経験者の協力を得てゲノム解析やメタボローム解析を行い、統合失調症の原因解明に取り組んできた。当事者で多く見られるゲノム多型や代謝障害を、培養細胞や動物モデルで再現し病態を科学的に再構築している。また、特徴的なゲノム多型や遺伝子変異をもつ当事者からiPS細胞を樹立して、神経系へ分化させ病態を解析している。統合失調症は、どの民族でも100人に一人がかかる、比較的頻度の高い疾患である。人類が進化の過程で、この病態を淘汰せず一定頻度で経験し続けてきたのはなぜだろうか。モデル動物や培養細胞で再構成された病態には、そうした観点からも答えを見出そうとしている。 統合失調症では、脳の高次機能である能動性の意識や自己の同一性など、自我の機能にも困難を生じる。自我や自己意識といった、かつて哲学や宗教が挑んだ領域に、ミクロのレベルの生物学から解明に挑んでいる。http://www.igakuken.or.jp/schizo-dep/ 参考:科学者が脳と心をつなぐとき(地域精神保健福祉機構)、統合失調症が秘密の扉をあけるまで(星和書店)、臨床家がなぜ研究をするのか(星和書店)
- 研究キーワード
- 精神疾患、心、脳、分子生物学、ゲノム